のほほん散歩道

vol.04 赤チンの話

先日、仕事仲間というか同業者の大先輩たる方から、ある探し物の相談をされました。

「<赤チン>を探しているので、どこかに無いか?」ということでしたから、薬局で扱っていませんかとお答えすると、最近のではなく<昔の赤チン>を探していると返答されました。

<昔の赤チン>ということは、<今の赤チン>じゃないというか、モノが違うのですか?と伺うと、「似ているが効き目が全然違う」と返答されました。

最近は殆んど見かけませんが、昭和40年の頃は傷だらけで遊びまわる子供が普通に見かけられていました。膝小僧や腕に<赤チン>をぬってまっかっかになってましたねぇ。
40代後半以降の方ならご存知でしょうが、女の子はともかく擦り傷や切り傷なんてごく普通にありました。

今では絆創膏なんてありふれたものですが、昭和40年の頃には輸入物の「バンドエイド」だけで、なかなか高価でしたしあまり普及しておらず、珍しかったです。

当然、ちょっとしたケガをすると、とりあえずはなんでも「赤チン」でした。

<赤チン(マーキュロクロム液)>というのは、すでに殺菌・消毒に用いられていた<(希)ヨードチンキ>が赤茶色だったのに対して、<赤い(ヨード)チンキ>というイメージで広まったらしいです。成分的には別物のようで、確か容器の名前も<マーキュロクロム>と明記されていましたが、要するに通称<赤チン>です。

<ヨードチンキ>は高価だったのか、あまり記憶が無く小学校の保健室にもあったかどうかも記憶が曖昧です。ですから、大概は<赤チン>をぬっていた記憶ばかりです。

この<赤チン>ですが、ぬって渇くとやたらとテカテカ光る。光の加減で黄色や金色にも見えるのできれいと言えばきれいですが、目立ってしょうがない。一応は水溶性と聞いていましたがシャツに付くとなかなか落ちないし、そのくせに汗をかくと流れてしまう。

製法だか、元々の成分だか、<水銀>が混入されており、それが渇くとテカテカになる原因でした。今でこそ、<水銀>というと毒物扱いで管理も使用も制約されていますが、子供だった為か気にしていませんでした。というよりも周囲の大人も無頓着だったような気がします。

あとから知ったのですが、昭和40年年代中ごろ(1970年代初め)に製造過程で<水銀>が発生するという理由で製造が中止されたようです。でも現在のように目立った回収が行われなかったので、在庫限りみたいな感じで売られていたような気がします。

当時は流行かと思っていたのですが、危険な?<赤チン>をぬる方法から、傷の手当に<オキシフル(石炭酸)>で消毒してから(今はやらないでしょう)、軟膏や<ヨードチンキ>をぬって絆創膏をはる方法などに徐々に変わっていったのでしょうね。

製造も販売もされないわけですから、手持ちの<赤チン>が無くなれば別の傷薬が普及するわけで、当初は話題になったものの、時とともに<赤チン>を忘れていました。

とりあえず、薬局の傷薬のコーナーへ行き、<赤チン>を探してみました。しかし、無い!三軒目でやっと<赤チン>こと<マーキュロクロム>を発見!早速購入しました。
容器のデザインが多少変わっており、昔はすぐに取れてしまったスポンジの先端から、しっかりしてぬりやすい先端に改良されてました。
ケガはしていませんでしたが、ちょっと試しにぬると赤インクみたいで昔と同じようでしたが、乾いてもあの独特なテカテカ感がありません。

説明書を読むと「水銀は使っておりません」と明記されており、昔のモノとは別物ですよみたいな説明です。
根強い<赤チン愛好家>?がいたのでしょうか、安全な<赤チン>として復活したのでしょうね。

話は冒頭に戻りますが、それで「(昔の)赤チンないか?」ということになったわけです。

製造上の基本的な成分なのか、水銀が含まれていないせいなのか、どちらの理由か分かりませんが効き目が全然違うらしく、あちこちに手を尽くして多少は集められたものの手持ちの在庫がつきたので、もし昔の<水銀入り赤チン>があれば1本5千円でも欲しいそうです。

ちなみに、何に使うかというと、<ランチュウ>という高級金魚を趣味で繁殖されていて、病気の予防及び治療にたいへん効果があり、市販の魚病薬よりも確実だそうです。

また、市販の魚病薬は水量に対しての適切な濃度の調整が面倒で、<赤チン>だとどのくらいの水量にたいして何滴たらせば済む、という実績ももたれているとか。

もし、保存状態の良い<昔の赤チン>があったら、高値で売れるかもしれませんよ。ちなみに、中国あたりだと何となくありそうですが、すでに無いようです。

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